中野剛志『保守とは何だろうか』は読み継がれるべき名著である。

保守とは何だろうか (NHK出版新書)

保守とは何だろうか (NHK出版新書)

名著だと思います。

まさに「本当のところ保守って一体何なの?」と訊かれたときに差し出すべき一冊として、長く読み継がれるべき、語り継がれるべき一冊だと思います。

『正論』や『諸君』に度々登場し勇ましい(?)ことを叫び立てているような知識人を「保守」だと思い、嫌っている人にもぜひとも読んで欲しい一冊です。

本当の意味での「保守思想」とはなにかが過不足なく、また斬新な視点も込めて、書かれた傑作です。

新自由主義」――「小さな政府」だの「健全財政」だの「規制緩和」だの「グローバル化」だのとのたまう思想を克服したい人にもお勧めです。

平易に論理を積み重ねて、歴史における実例を挙げて、落ち着いた筆致で書かれています。


迷走する保守

「保守」と「革新」の捻れ/「保守の死」/新自由主義の無残な帰結/「一つの国民」――イギリス保守の精神的伝統/「保守主義」対「新自由主義」/ハイエクの保守観/なぜ「保守主義」を追究するのか/天才経済学者コールリッジ

財政――なぜ保守は積極財政を支持するのか

1.イギリスはなぜデフレに陥ったのか
戦時中の好景気の背景/不況に追い打ちをかけたバブル崩壊

2.国富はいかに増大するのか
コールリッジの乗数効果論/マクロ経済システムが崩壊する要因/「トリクルダウン」効果のまやかし

3.機能的財政論とは何か
国債、必ずしも悪ならず/健全化すべきは財政ではなく経済

4.貨幣とは何か
一九世紀前半の地金論争/貨幣は単なる商品ではない

5.コールリッジのマクロ経済論
不活動貨幣を活動貨幣に変える方法/国債の意義/国民統合の重要性/金融緩和だけでは不十分

金融――「過剰な営利精神」を抑制せよ

1.一八世紀末の「大転換」
自己調整的市場システムの登場/デフレはいかに生産組織を破壊するか/オーウェンの洞察

2.金融市場の変動は何をもたらすか
経済的自由主義vs社会防衛/人は営利精神に支配される/賭博台――金融市場の不安定化/市場の自己調整に任せられるか

3.一九世紀と二一世紀の金融循環
ブームからバーストへ/「金融不安定化仮説」はなぜ異端視されたのか/金融不安定化の三つの要因

4.「営利の過剰」と道徳の危機
理論構築の先駆者たち/集団心理の転換がポイント/危機の根源は「精神」にあり/経済と道徳は無関係ではない

社会――「改革」はどのように行うべきか

1.アグリ・ビジネスの罠
食糧は戦略物質である/一九世紀の反グローバリズム/農業システム化末路

2.失業・貧困へのまなざし
スピーナムランド法への評価/「自由労働」が貧困を招く/対抗軸としての「国家精神」

3.マクロ的視点からの改革案
伝統的階級秩序の役割/真の学問が有する価値/改革にバランス良く、漸進的に/有識者と国民協会

4.社会を防衛せよ――保守と革新が一致する
オーウェンの社会防衛策/教会に代わる教育システム/コールリッジとの共通点/ケインズ的処方箋のさきがけ/保守主義の三つの特徴

科学――保守が描いた「知の方法論」

1.機械論哲学と主流派経済学
聖書こそ「知の指針」である/機械論哲学の二つの流れ/機械論的な経済観

2.科学とは信仰である
なぜ理性と信仰が結びつくのか/「象徴的動物」としての人間/科学は直感から始まる/観察の理論依存症/理論先行の主流派経済学/科学的発見はいかにして可能になるのか/未来を予見する「内なる感覚」/未来志向の歴史観

3.「生の哲学」とは何か
まずは「全体的ヴィジョン」が必要/科学的発見の背景に「暗黙知」あり/コールリッジのベイコン解釈/科学は「生」の上に成り立つ

国家

1.何が国家精神を堕落させるのか――コールリッジの予言――
理性獲得のための教育とは?/教養はなぜ衰退したのか/「商業の過剰」が国家を衰退させる

2.国体の本質とは何か
不易と流行を均衡させる/「純粋な民主主義」は危ない/なぜ新自由主義は独裁権力と結びつくのか/多元的な社会を結びつけるもの

3.政治的理性の限界
ホッブスへの反論/普遍的人権という虚構/ハイエクの統治理論/保守理論と新自由主義の境界線/伝統の精神とは何か/理想の国際社会とは?/常に原初状態にある社会契約/真の愛国者の条件/アメリカの一極主義批判/不完全性の政治学

4.なぜ保守主義が必要なのか
「保守」が新自由主義固執する理由/騒擾と革新を乗り越えるために