真正保守の採るべき施策・認識を網羅した名著・小浜逸郎『デタラメが世界を動かしている』

デタラメが世界を動かしている

デタラメが世界を動かしている

エントリの表題で、文字数制限があるので「真正保守の採るべき施策・認識を網羅した名著・小浜逸郎『デタラメが世界を動かしている』」と書きましたが、実はのっけから看板に偽りありです(笑)。

私は、哲学畑にまったく詳しくないし(というか明るい分野などない(苦笑))、小浜逸郎さんの著書にちゃんと接してきたわけでもないのですが、おそらく、小浜逸郎さんが、ご自分を「保守」と規定されたことはないと思いますし、「真正保守」を標榜されたこともないでしょう。

どちらも、最近は手垢にまみれすぎていますからね。「真正保守」というのも、中川八洋氏あたりが自称しているので、にんともかんとも……(苦笑)。

しかし、「右」でもなく「左」でもないし、俗流保守の言説も批判されていることから、端的に表現するとしたら、これしか思い浮かばなかったんですよね。

中野剛志さんが「保守とは?」と問われ、西部邁さんを指して「右翼からは『あいつは左翼だ』と言われ、左翼からは『あいつは右翼だ』と言われる煮ても焼いても喰えない」ものだと答えたことがありましたが、まさにそういうことです。

小浜さんは、言論誌『表現者』に寄稿されていて、本書で高評価され採りあげられている人たちも「ある老思想家は『安倍首相は戦後レジームの完成者だ』という名言を吐いていました」としてちらりと登場している西部邁さんを始め、佐伯啓思さん、中野剛志さんら、いわゆる「表現者グループ」が多いので、そう評してもいいのでしょうが、それでは多くの人には理解されないでしょう。
西部さんは、奥様を亡くされて以降、「魂の70%くらいあの世に持って行かれている」ということで、最近は新聞もろくに読まれないそうで、「時事批評」からは敢えて距離を取られがちなので「表現者グループ」とニアイコールの「西部グループ」というのも憚られます。三橋貴明さんや青木泰樹さんは表現者グループでも西部グループでもありませんしね。

要するに、帯にある、「右も左も変!」と思う貴方に「知の武器」を贈ります、という文言が一番的確なんでしょう。

ともかく、異論がある部分も蛇足だと思う部分(ぶっちゃけケント・ギルバートさんとの対談)もありましたが、これほど「個別具体的」に、真正保守の良質な部分を論じた書物はなかなかないのではないでしょうか?

これなら、知人に「ちょっとこれ、読んでみたら」と薦める一冊として十二分です。

第一章の「歴史認識というデタラメ」は、「左」の人に毛嫌いされず手に取らせるためにももっと後ろで良かった気もしますが、第7章の「戦後知識人というデタラメ」では、内田樹氏や宮台真司氏、小林よしのり氏(については触れた程度ですが)ら、「ちょっと面倒くさい方々」への痛烈な批判もあり、腑に落ちる言説ばかりでした。

私が、初めて小浜逸郎さんの著作に触れたのは「男がさばくアグネス論争」でしたが、まだガキだったので、「アグネス論争」なるものがあったことを知らず、宝島社の特集ブックレットも手に入れられなかった時期に後追いで手に取ったものでした。

当時から、小浜さんの知的誠実さは際立っていました。
私と意見の違うこともありますが、氏の正鵠を射貫いた本書における思想・言論は、多くの人に読まれて欲しいと切に願います。

西部邁ゼミナール」で取り上げて欲しいと思った一冊でした。売れてくれますように……。