『藝人春秋』水道橋博士……今夜は寝付けそうにない。
遅きに失した感がある。
『藝人春秋』を読むのが、である。
- 作者: 水道橋博士
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/12/06
- メディア: 単行本
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しかし、これには理由があって、iOS向けに細切れに配信されたアプリ版の『藝人春秋』を読んでいたため、素晴らしいと思いつつ、「もう読んだし……」と手に取らなかったからである。
だが、「見えない道場本舗」のグリフォンさんの長文書評
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130216/p3
にあてられて、遅まきながら買った。
(ここで「遅きに失した感」と書いたのは、自分が完全に本書推しのビッグウェーブに、盛り上がりのムーブメントに乗るのに「出遅れた」という意味であって、もちろん、今から読んでもまったく価値は減じない――というより、本書は、いつまでも燦然と輝き続けるだろう)
Kindle版を今日買って、たった今、読み終わったところである。
もっと早くに読んでいるべき本であった。しかし、読めて良かった……その感動が今、躯を包んでいる。
もう多くの人が言っていることだから、今更書いても陳腐になるが、傑作であった。
骨身を削って血肉と化して書かれた、紛れもない傑作であった。
このブログで、「浅草キッド愛」「水道橋博士愛」を語ったことは、おそらく無い。
「北野武さんの功績」を熱く記したことも、爆笑問題について語ったことも、松本人志へのアンヴィバレントな想いを書き綴ったこともあるが、何故かこれまで手つかずだった。
浅草キッドとの出会いは、伝説となっている「ビートたけしのオールナイトニッポン」まで遡る。
年齢的にそのスタートには間に合わなかったが、勉強しながら、ビートたけしのマシンガントークを耳にする喜びを抱きしめながら、毎週、聴いていた。
その中で、浅草キッドがネタをやって、ビートたけしが「あはは(笑)。おもしれえんだけどなあ。なんで売れないのかなあ」と呟いていたのを今も覚えている。
その後、『ザ・テレビ演芸』で10週勝ち抜きするのを我が事のようにはらはらしながら応援していたのを覚えている。
元々、浅草キッドとは、共通する嗜好があった。
かつて前田日明のファンであり、格闘技追っかけをしていたし、言うまでもなく、ビートたけし愛があった。
しかし、その後、博士の書籍を欠かさず読みながら、玉袋筋太郎の出演番組『5時に夢中サタデー』を毎週観ながら、若干距離を置いて眺めていたところがある。
それは、特に水道橋博士に感じていた部分であるが、Twitterなど双方向のメディアに没入することによって、「炎上」を避けるために言葉を選び、読者たちのリアクションに気を遣うことによって、「牙」が抜かれていっているような気がなんとなくしていたからだと思う。
もちろん、解っていたのだ。博士が、自分は『許されざる者』の中の伝記作家でいいのだ、となっていった経緯も、それでもそれに抗っていた経緯も。
ただ、いつしかその中で、自分にとって、浅草キッドなり、水道橋博士なりは、「自分の追っかける存在」ではなく、「自分と一緒に追っかけをする存在」になっていっていたのだ。
スカパーで、まだ「北野チャンネル」が存在し、地上波では決して流せない彼らの長尺漫才の「もの凄さ」も見ることができた頃は良かった。しかし、叶わなくなっていたこともその要因のひとつではあろう。
だが、ここに、「あのときの」浅草キッドがいた! 水道橋博士がいた!
まだ決して牙を失っていない、爪をとがらせた博士がいた!
何度でも書く。遅きに失したかもしれないが書く。
本書は傑作である。
これまた遅まきながら、博士のメルマガ購読の手続きをしたことも、当然の流れとして記しておく。
【追記】このエントリを書いた後に、女優の酒井若菜さんの、本書をきっかけに綴られた水道橋博士との交流にまつわる文章を読んだ。Amebaブログに書かれたものだけれども、ダイレクトリンクのしかたがよくわからないので、こちらのURLを書いておく。
http://geininshunju.net/comment.html
私は、酒井若菜さんのことは何も知らない。名前だけは知っていたけれども、彼女の活動について全く存じ上げない。それでも、この文章には、泣けてしまった。『藝人春秋』にも泣かされたが、この酒井若菜さんの文章にも泣かされた。そして、文章の巧みさに唸った。読後の熱と勢いにまかせて自分の書いた己語りばかりのこのエントリの駄文とは、比べるべくもないほど素晴らしい自分語りだった。ある種のカタルシスを感じたほどだ。是非、ご一読を。