高増明:TPP内閣府試算の罠

高増明:TPP内閣府試算の罠 ── 菅内閣がひた隠す"不都合な真実"

http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2011/04/tpp_15.html

TPPに参加した場合の実質GDP2.7兆円押し上げというのが実は10年累積のデータだったことは、先日、中野剛志さんが鋭く指摘したとおりです。

リンク先では、このあたりのからくりを詳細なデータ・解説とともに、検証しています。
是非、ご一読を。

日本だけがTPPに参加した場合、日本はGDPを0.29%増加させますが、日本のコメ生産額は−64.5%、小麦の生産額は−62.3%、肉類の生産額は−23.9%となって、日本の農業は壊滅的な打撃をうけるという結果になりました。

このような結果は政府も得ているはずで、それを発表しないのは、都合の悪い結果を隠しているとしか思えません。また他の国のGDPがどのように変化するのかも明らかにしていません。

誰でも1年で3〜4兆円だと思いますよね。それが1年で3000億〜4000億円なんていうことであれば、ほとんどゼロに等しいです。

アメリカの狙いが、金融分野などにあることは明らかだと思います。

しかし、金融については、リーマンショックでも明らかになったように、規制緩和が良い結果をもたらすとは限りません。ヘッジファンドは、利回りの高い住宅ローンを証券化したものを買って、さらにそれを担保に債券を発行して資金を調達し、さらに証券を買うということを繰り返して、手持ちの資金の何十倍もの資金を運用しました。その結果、利益も何十倍になる可能性があります。しかし、それが損失となったときには、それも何十倍になるということです。このような影の金融機関やその取引を規制できなかったのが、リーマンショックの原因でした。

日本や中国などアジアの国が、リーマンショックの影響を直接受けなかったのは、規制や障壁が厳しかったからです。それが、TPPへの参加によって、なしくずしになる可能性は高いと思います。

まず「平成の開国」というキャッチフレーズを聞いて、TPP参加が危ういものだと思わない人は、どうかしていると思います。いったい誰が考えたのですか? 「開国」が関税ゼロという意味なら、どこの国にとっても、そう簡単に認められるものではありません。そもそもFTAが拡大してきたのは、包括的な交渉であるWTOが合意できなかったからです。もし、どこの国でも、どの産業についても、関税引き下げが望ましいのだったらWTOもすぐ合意できたでしょう。

関税の引き下げがいいことだというのも一般には間違っています。競争や自由貿易が経済を望ましい状態に導くというのは、様々な前提が満たされているときだけで、現実にはそれは満たされていないと考えるべきです。収穫逓増、不完全競争、情報の不完全性、公共財、外部性など「市場の失敗」と呼ばれる状況は現実に普通に存在しています。また自由貿易は産業構造の変化を促進させますが、その結果、生じる失業は、失業する人、ひとりひとりにとっては、そんなに簡単な問題ではありません。
日本の自動車産業だって、戦後の長い間、高率の関税で守られてきました。もし1950年代、60年代に自動車の関税を引き下げたら日本の自動車産業は壊滅していたでしょう。実際、当時の経済学者の一部や日銀総裁は、自動車産業不用論を唱えましたが、通産省(現在の経済産業省)が反対して自動車産業を育成したのです。経済産業省は、その時のことを忘れたのでしょうか?競争でいいのなら、経済産業省なんていらないですよね。

経済学者のなかには、農業のような生産性の低い分野に投入されている資本や労働をより生産性の高い分野に振り向けるべきだという人もいます。竹中平蔵さんも、構造改革は生産性の低い産業で働いている人が高い産業へ移れるチャンスですと言っていました。しかし、本当にそんなことが可能だと思っているのでしょうか? 昨日まで農業をしていた人が、今日からIT産業で働けることはありえません。最近の経済学者のなかには、現実と経済モデルの違いがわからない人がたくさんいます。TPPのような極端なものに飛びつく経済学者は、そういう人か悪い奴のどちらかだと思います。マスメディアの一部もそういう乱暴な議論が好きですよね。